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東京高等裁判所 平成元年(行ケ)256号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)及び二(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1 本件意匠が、意匠に係る物品を「道路用ガードポール」とし、その形態は別紙第一のとおりであることは当事者間に争いがなく、引用意匠が、意匠に係る物品を本件意匠と同一のものとし、その形態が別紙第二のとおりであることは、原告も認めて争わないところである。

右別紙第一及び第二によれば、本件意匠と引用意匠は、基本的構成態様において、ともに、長目の垂直円筒部の上方に、広幅の帯状区画部を水平に設け、該円筒部と同心で外方へ鍔状に張り出させた円板部を該円筒部の上端に水平に固着したものである点で一致し、その具体的構成態様において、円板部の径につき、円筒部の径の略二倍としている点、円板部中央に、円板部径の略三分の一の円心円状部分を陥没させ、その窪み部の中央に横一文字状に指掛け部を設けた点で共通しているが、該円筒部の径に対する長さの割合は、本件意匠が略一対一七であるのに対し、引用意匠は略一対九であつて、本件意匠の方が細目の印象を与える点、帯状区画部の円筒部全体に占める長さの割合につき、本件意匠の方が引用意匠に比してやや大きく、また、帯状区画部の長さとその上の円筒部分の長さの割合は、本件意匠の方が略同一であるに対し、引用意匠の方は帯状区画部の方がやや短い点、本件意匠では、該円筒部下端に方形板状の小突起を設けているのに対し、引用意匠では、これを設けていない点、帯状区画部につき、本件意匠では、不透明体からなる円筒部の上部と下部の間に、これらの径より小さい円筒部を形成し、その周囲を透明体が該不透明体円筒部周壁と同一面状に充填された形態としているのに対し、引用意匠では、周壁を均一に一段凹陥させたのみで透明体を充填させていない点で差異があることが認められる。

ところで、本件意匠と引用意匠がともに意匠に係る物品とする「道路用ガードポール」は、道路あるいはその境界線上等に設置し、車両等の侵入を防止するためのもので、道路面の土中又は保持筒に該円筒部の一部を挿入し起立させて使用するものであるが、両意匠の基本的構成態様のうち、「長目の垂直円筒において、該円筒部と同心で外方へ鍔状に張り出させた円板部を該円筒部の上端に水平に固着した」という構成態様は、成立に争いのない甲第四号証ないし甲第一三号証(枝番を含む)によれば、道路用ガードポールにおいては本件出願前より周知の形状であることが認められる。してみると、右構成態様は、本件出願当時、取引者、需要者がしばしば目にするありふれた部分であり、看者の注意を強く惹く箇所とはいえず、そこに意匠の要部があると認めることはできない。

むしろ、両意匠の対象物品たる道路用ガードポールが前記したような用途、使用形態であることからすると、該円筒部の上方に設けられた広幅の帯状区画部の存在こそが取引者、需要者の注意を強く喚起し、両意匠の特徴を印象づけるのであつて、その具体的構成態様が意匠の要部をなすというべきである。

そして、前記認定したとおり、帯状区画部の具体的構成態様は、引用意匠が周壁を均一に一段凹陥させているのに対し、本件意匠は、不透明体からなる円筒部の上部と下部の間に、これらの径より小さい円筒部を形成し、その周囲を透明体が該不透明体円筒部周壁と同一面状に充填された形態としている点で相違しており、この構成態様上の相違が、帯状区画部の円筒部全体に占める長さの割合は本件意匠の方が引用意匠に比して大きいことと相まつて、全体として、本件意匠がスマートで滑らかな優美な美感を看者に与えるものであるのに対し、引用意匠は、太目で、かつ角張つた美感を奏するものであると認められる。

してみると、両意匠は全く美感を異にするものであり、意匠として類似するものとはいえない。

被告は、意匠は物品全体としての外観を対象としているものであるから、意匠の類否に当たつては個々の要素にとらわれた部分観察にかたよることなく、全体観察によつてその意匠的特徴を見極め、この点を要部として判断するべきものであり、周知形状であることをもつて直ちに類否判断の要素から除外されるものでなく、両意匠の意匠的特徴はその基本的構成態様にある、と主張する。

意匠の構成のうちのある部分が周知の形状であるからといつて、それ故に当該部分が意匠の要部になりえないといえないことは被告の主張するとおりであるが、本件において、両意匠を全体的に観察した場合、意匠的まとまりを形成し、看者の注意を最も強く惹く箇所は、前記認定したとおり、帯状区画部にあるのであつて、「長目の垂直円筒において、該円筒部と同心で外方へ鍔状に張り出させた円板部を該円筒部の上端に水平に固着した」という構成態様は、道路用ガードポールとしてはありふれた形状であるため、帯状区画部に比較してはるかに看者の注意を惹き難い箇所であり、ここに意匠の要部があると認めることはできない。

2 以上のとおりであつて、審決は、本件意匠と引用意匠は類似していると誤つて判断したものであるから、違法であつて、取り消しを免れない。

三 よつて、審決の取消しを求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容する。

〔編注1〕本件における請求原因は左のとおりである。

一 特許庁における手続の経緯

原告は、意匠に係る物品を「道路用ガードポール」とし、その形態を別紙第一のとおりとする登録第六六二八五七号意匠(以下「本件意匠」という。)の意匠権者であるが、被告は、昭和六〇年一一月三〇日、原告を被請求人として本件意匠についての意匠登録の無効審判を請求し、昭和六〇年審判第二二九三一号事件として審理されたが、平成元年九月二一日、「登録第六六二八五七号意匠の登録を無効とする。」との審決があり、その謄本は同年一一月二二日原告に送達された。

二 審決の理由の要点

1 本件意匠は、願書の記載及び願書に添付した図面代用写真によると、昭和五八年四月二八日に、別紙第一に示すとおりの意匠を登録出願したものであり(昭和五八年意匠登録願第一八一〇四号、意匠に係る物品「道路用ガードポール」)、昭和六〇年七月一一日に登録されたものである。

2 これに対し、昭和五八年九月一九日発行の意匠公報によれば、昭和五六年九月四日、意匠に係る物品を「柵柱」とする別紙第二に示すとおりの意匠が登録出願され(昭和五六年意匠登録願第三九二七五号、以下「引用意匠」という。)、昭和五八年六月三〇日登録されている。

3 本件意匠と引用意匠との類否

まず、両意匠に係る物品を対比すると、本件意匠に係る物品は「道路用ガードポール」であるのに対して、引用意匠に係る物品は、車の通行止め等に用いられる「柵柱」であるが、両物品は、同じ使用目的、使用態様によつて用いられる同一の物品と認められる。

そこで、両意匠を対比すると、両意匠は、次に示す基本的構成態様において一致するものであるとともに、具体的構成態様の一部において共通点及び相違点を具有するものである。

すなわち、長目の垂直円筒部の上方に、広幅の帯状区画部を水平に設け、該円筒部と同心で外方へ鍔状に張り出させた円板部を該円筒部の上端に水平に固着した基本的構成態様が一致するものであり、各部の具体的構成態様において、該円筒部の上方に、帯状区画部と略同じ長さの余地を残し、その下に帯状区画を形成した点、円板部の径につき、円筒部の径の略二倍としている点、円板部中央につき、円板部径の略三分の一の円心円状部分を凹陥させ、その窪み部の中央に横一文字状に指掛け部を設けた点が共通するものである。そして、該円筒部の径に対する全体の長さの割合につき、引用意匠に比して本件意匠の方がやや大きく、全体にやや細目の印象を与える点、該円筒部の全体の長さに対する帯状区画部の長さの割合につき、本件意匠に比して引用意匠の方がやや大きい点、本件意匠では、該円筒部下端に方形板状の小突起を設けているのに対して、引用意匠では、これを設けていない点、帯状区画部につき、本件意匠では、周壁を均一に一段凹陥させた上に透明体を該円筒部周壁面と面一状に充填させた態様としているのに対し、引用意匠では、周壁を均一に一段凹陥させたのみで透明体を充填させていない点が相違するものである。

4 そこで、前述した両意匠の共通点及び相違点を総合し、両意匠の類否について検討する。まず、相違点について案ずるに、該円筒部の径に対する全体の長さ及び全体の長さに対する帯状区画部の長さの各割合につき、両意匠では多少の差異が認められるが、この種物品は道路面の土中又は保持筒中に該円筒部の一部を挿入し起立させて使用するものであり、該円筒部の長さは必要に応じて適宜選択して用いられるものであるため、長さ(又は太さ)の異なる種類のものが種々あつたとしても、その点は当該意匠創作の要素としては付随的なものであり、両意匠を見る者にとつては多少の差異を超えて、ともに長目の円筒(又は円柱)状のものとして認識されるものと認められるから、その差異は類否の判断に影響を及ぼす程のものとは認められない。また、帯状区画部の長さの差異については、当業者が同種の意匠につき通常行う範囲の部分的改変の程度を出ないものであつて、視覚的にも僅かな差異と認められる。方形板状の小突起の有無については、目立たない部位における細部的な差異であつて、極めて軽微なものと認められる。次に、帯状区画部につき、両意匠の態様を対比すると、全体の長さに対する帯状区画部の長さの差異は僅かであり、該円筒周壁面から均一に一段凹陥させて凹陥部を形成したものとし(本件意匠の充填透明体を除き)、円筒部上方に帯状区画部と略同じ長さの余地を残し、その下に帯状区画部を形成した態様が共通するものであり、これを使用態様から対比して考察すると、本件意匠の帯状区画部は、この種物品の使用態様から考えて透明体の内側の面、又は外側の面に適宜に色彩又は模様などを現して引用意匠の場合と同様にガードポールの帯状区画部に何らかの表示目的を持たせて使用するものと推認することができるから、引用意匠の使用態様と共通するものと認められる。また、各種の物品につき、表示・装飾等の機能を目的として目につき易い所に凹陥部を設け、そこに透明体を充填させる手法及びその態様は本件意匠の出願前から広く知られているものと認められる。したがつて、本件意匠の該凹陥部に透明体を画一状に充填させた点は極めてありふれた態様であつて本件意匠のみの特徴とはいい難い。

そして、両意匠において一致する基本的構成態様について案ずるに、具体的構成態様の各相違点に関しては前述のように考えられ、それらを相殺した効果とこの種物品の性質を勘案すると、基本的構成態様に両意匠の各全体としての意匠的特徴が現わされているものと認められる。

したがつて、両意匠は、基本的構成態様の一致に加えて、帯状区画部及び円板部の一部の具体的構成態様においても共通するものであり、これらの構成態様の共通点が相まつて、一部の具体的構成態様の相違点を凌駕し、両意匠を見る者に類似する意匠として認識されるものと認められる。

なお、請求人(被告)が帯状区画部の透明体に関し、透明体が充填されていることにより充填されていないものと同様の印象を与える旨主張する点については必ずしもそうはいい難いが、前述した帯状区画部の使用態様を考慮した場合、被請求人の主張のように透明体が充填されているか否かの点が両意匠の類否の判断を左右する最も重要な点であるとは認められない。

5 以上のとおりであるから、本件意匠は、その出願前の出願に係る引用意匠に類似するものであり、意匠法第九条第一項に規定する最先の意匠登録出願人に係る意匠に該当しないものであるから、その登録は、同法第四八条第一項第一号の規定により無効とすべきものと認める。

〔編注2〕本件における別紙は左のとおりである。

別紙第一

<省略>

<省略>

別紙第二

<省略>

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